2647.雨は山にも街にも等しく降る、それは国難の時代

秋田市の浸水状況を報道番組の画像で見た。近年、県都の中心部がどっぷりと浸水した、というのはあまり記憶にない。県庁所在地の市でも浸水することはあるが、多くの場合、市の中心部ではない。東北のしかも日本海側なので、まったく土地勘はないが、JR秋田駅前のロータリーが浸水し、秋田駅から5分ほどの市街地も冠水していた。雨がやめば浸水は半日以内に解消するが、その後が大変面倒なことになる。家電や家財道具がほとんど使用不能になるので、床上浸水すると、被害額は家財道具だけでも100万円～300万円程度、これは一般家庭の場合で、事業所などは数千万円にのぼる場合もある。車は座席まで浸水したら、ほぼ全損になるが、車両保険でも(新車価格の)全額は保証されない。私は自宅や実家が浸水した経験はないが、浸水家屋は数多く見てきた。悲惨だ。深層崩壊や土石流で人災が出た場合や、家屋が潰れた被害は取り上げられるが、床上浸水は人的被害がほぼないため、全国ネットでは詳細に報道されない。秋田市などは被害の実態把握だけで数週間、片付くのに、8月いっぱいかかるだろう。

TBSの昼の情報番組で「税金が適切に使われていないからだ」などとF皮Rとかいう、アタマの悪い芸人(慶応卒らしい)が妄言を吐いていたが、さすがの反政府系のTBSも、このコメントはスルーした。そういう問題ではない。24h雨量が、100年、200年に1度という規模の降雨だったのだ。

これは、下水道がパンクしたのだろう。下水というと、家庭雑排水や水洗トイレなどの汚水を流す菅渠を思い浮かべるが、日本の都市は、下水道は合流式がほとんどである。合流式とは汚水と雨水を同じ排水菅で流す。大降雨があれば、未処理の汚水が大量の雨水といっしょに海に放流される、というオソロシイものなのだ。

これに対して、分流式とは汚水管と雨水菅を別々の菅渠で流すものだが、古くから下水が整備されている都市はほとんどが合流式である。合流式の安全度はせいぜい10年～30年に一度程度の雨しか耐えられない。これは投資額があまりにも膨大になるからである。

合流式がパンクしたら、次なる対策は、地下貯留管しかない。直径数メートルの貯留管を道路などの公共施設の下に埋設していき、末端はポンプで海に強制排水する。市街地に100年に1度の雨が降る、などというのは、これまで想定していなかった。これに対して、河川の場合は、山など流域に降る雨を河道(河川の本川、支川など)で流せるように考慮して、河川の容量を設計してあるので、1級河川の国が管理する区間(下流部)は、100年～200年に1度の雨にも耐えられるように計画されているが、市街地の排水は下水道で対応するしかない。河川は古来からある自然物で、下水とは人が作った人工物にすぎない。しかし、今は、山にも市街地にも等しく雨が降る時代になった。「線状降水帯」なる言葉は、2014年の広島豪雨災害で注目されるようになり、2021年から気象庁が予報を発表するようになった。かつては、大規模な降雨は山にしか降らなかった。今では、それは市街地にも降る。国難の時代になったのだ。