1366.ポスト・アベノミクスのFTPL(シムズ理論)は危険かも |
先週1/25に、名目3%の成長でも、2020年度の財政健全化目標の達成は困難で、8.3兆円の赤字になる、との記事が流れました。記事の扱いは大きかったのですが、市場ではスルーされた形になり、あまり反応はありませんでした。ただ、政府としては何か次なる目標なり、別の経済政策を考えなければなりません。
日経1/29付けには、「内閣官房参与の浜田宏一氏は、クリストファー・シムズ博士(プリンストン大教授、2011年ノーベル経済学賞受賞)の講演を聴き、「目からウロコが落ちた」と評して、「ポストアベノミクス」の政策運営に影響を与えつつある」との記事が掲載されました。浜田氏は、2月中にシムズ博士を日本に呼び、安倍首相に会わせる予定だそうです。C.シムズ博士によるFTPL(通称シムズ理論)に関して、先週末に読売と日経が博士とのインタビュー記事を掲載しています。今後、ブームに火がつくかもしれません。浜田氏をはじめ、リフレ派がなだれをうって、シムズ理論に傾倒しはじめたそうですから、日本政府も採用を検討するかもしれない。今の日本にとって、あまりにも都合がいい理論だからです。しかし、増税を封印される財務官僚は激しく抵抗するかもしれない。
シムズ理論を日本に適用する場合、要約すると、以下のようになります。(日経の1/19版から引用)
●日本のように政策金利が下がってゼロ金利になると金融政策で物価をコントロールすることは無理。
●ゼロ金利制約下で物価上昇を実現できるのは、中央銀行ではなく財政をつかさどる政府だ。政府がインフレを起こすには、むしろ増税での財政再建を棚上げしなくてはならない。
●政府のトップが『インフレを起こす準備ができている。それを債務返済に使う』と言えば、人々の予想を十分に変えることができる。
●今は投資家にとって政府債務の魅力が強すぎる。投資家は安全を欲しており、国債が最大の投資先だ。この資金の流れを民間投資に向けるには、人々が『国債を持ちたくない』と思うように仕向けなければならない。インフレを起こしてそれで政府債務の一部を返済すると宣言すれば、価値が損なわれる国債の魅力は弱まり、民間投資への資金の流れをつくることができる。
●最終的に増税が必要だとしても、経済に悪影響をもたらす低金利・低インフレが続いている間は増税しないと宣言することが重要だ。政府債務への過剰な資金流入を止め、民間需要を高めることが必要だからだ。
●例えば政府の借金が100兆円あるとする。ただ、残念ながら将来は50兆円分の返済原資しか得られそうにない。政府は個人や企業と異なり借金を踏み倒すことはできない。どうするか。通常であれば増税で借金を返そうとするだろう。しかし、FTPLでは増税ではなく、インフレで借金を返そうと考える。50兆円の返済原資をインフレによって名目100兆円に膨らませることができれば、増税しなくても借金は帳消しにできる。このメカニズムを応用すれば「政府は増税しません。インフレで借金を返済します」と公約すればいい。個人や企業はその場で「将来は物価が上昇する」と考え、実際には財政が野放図に悪化する前に人々のインフレ予測が上向く。これがFTPLの考え方だ。
いかがでしょうか。結果的に財政出動するための言い訳に都合の良い理論ですが、これを経済政策に落とし込むには、何らかの仕掛けがいる。アベノミクスが頓挫した以上、安倍総理といえど口先でのインフレ誘導は難しいのではないか。インフレを起こす方法論としては財政出動ですが、何やら危険なにおいがいたします。首相官邸にも与党にもアイデアがない。仕方なく、霞ヶ関に丸投げし、予算の分捕り合戦が始まる。そういう光景はもうウンザリだ。効果的な財政出動ならよいのだが、失敗すればかえって政府債務が膨らむことになり、取り返しのつかないことになるような結果に終わる…そんな気がいたします。

